千切り峠

 昔々、そのまた昔のお話です。
 イツキヒメノミコトという神様は、立派な社を建てたいと思い、美しくて住み良い土地を見つけるために、お供のもの連れて旅に出ました。
 旅の途中、現在の“あさひが丘団地”あたりの峠で、一休みされました。峠から見下ろす荒谷山は、日浦・久地・安にまたがり、とても美しい眺めでした。
 イツキヒメノミコトはすっかり気に入られ、お供のものに、
「眼下に見下ろす谷が千あったら、ここに社を建てます。いくつあるか、数えてきておくれ。」
と、頼まれました。お供の神様は早速谷を数えて歩きましたが、谷は九百九十九谷しかありませんでした。
「もう一度数えてみておくれ。」
と、頼まれましたが、やっぱり谷は九百九十九しかありません。ヒメはたいそう力を落とされ、
「もう一谷あったら、ここに社を建てるのに・・・・。」
と言って、イツキヒメは宮島に渡られました。宮島には千の谷があり、やっと社を建てることができ、厳島神社と名づけられました。それから、荒谷山の峠を“千切り峠”と呼ぶようになりました。