東正寺

 昔々のことじゃがの、小河内の下楓原(しもかえでばら)に、東正寺というお寺があったんじゃと。
 この東正寺は、なんでも、可部の福王寺で修行された坊さんが来られて、建てんさったんじゃげなで。
 その坊さんはの、毎日毎日とっても厳しい修行をしとりんさったげな。その坊さんもだんだん年を重ねられ、自分の死が近づいたことを悟られんさったそうな。そして、自分の姿を後世に残しておこうと思いんさったげな。
 坊さんは、一刀三拝の儀を行い、体を清めんさって、お寺の前にあった小さい池を鏡にして、一心不乱にノミをふるい、自分の姿を彫り続けんさったげな。東正寺の寺守さんは、そんな坊さんの姿に感動し、一生懸命面倒を見てあげんさったげな。おかげで座禅を組まれた立派な仏像が彫りあがり、お寺に安置されたんじゃと。それから自分の身を清め、衣服を改めんさった坊さんはの、東正寺の裏山に墓穴を掘り、その中に生きたままお入りになり、念仏の内に自力本願の仏様になられたんじゃと。
 なんとまあ、厳しい修行をされたもんですの。
 今んでも、東正寺の坊さんの墓といわれる土饅頭があり、その周りは歩いて40歩くらいの大きさと言われとるんじゃが、草木が生い茂ってしもうて、よう見にゃあ分からんようになっとりますけえ。けっちりこ。

東正寺跡と裏山の墓所